日本歯科新聞に掲載された記事をご紹介します。 20年以上前の新聞ですが、「高齢化先進国」についてかなり詳しく書いてあります。
今まさに日本が直面している高齢者社会を予測していた内容で、非常に興味深い内容です。
ぜひ、読んでみてください☆
我が国で初めて「高齢者歯科」を設けた日本歯科大学前教授がドイツ、イギリス、スイスなどヨーロッパの歯科事情を視察し、我が国の歯科医療の現状を踏まえて所感を語りました。
根本的に違う老人対策
日本で初めて高齢者歯科の診療科目ができ、わたしの専門は、この高齢者歯科となったが、これから日本は高齢者がどんどん増えてくる状態なのに、医療面では手探りの状況下にある。
そこで、高齢化社会の先輩であるヨーロッパを今回、視察してきた。ヨーロッパは長い歴史をかけて、高齢者が増えてきた。
フランスは全人口の7%が65歳以上となってから14%になるまで125年かかったといわれている。
一方ドイツでは50年ほどである。日本ではわずか26年である。このため、これから高齢者にどう対応するか手探りの状態だ。そこで、ヨーロッパでは、学生教育がどうなっているのか。あるいは在宅診療がどうなっているのか調べたいと思ってきたわけである。
わたしは、イギリス、ドイツ、スイスの3カ国を回りもう一人鈴木正直講師がフィンランドへ行った。
人口6千万人の小さな国であるが、高福祉が進んでいる。
日本はどちらかというと、社会の構成が団体的だ。フィンランドは個人単位である。このため日本としてもかなり参考にすべき点もあると視察することになった。アンケートもとってきた。まだその結果はでていない。
ヨーロッパには、高齢者のための国際的な学会がある。そこで、高齢者を専門にやっている先生に会って話を聞いてきた。また老人の施設も見てきた。
日本とヨーロッパでは根本的に違うことを、今回、改めて認識した。日本の場合、医療や技術、ハード面の器械類はとても進んでいると思う。世界的にもトップレベルにあるといえる。そこで、ハード面施設面ではそれなりに医療を行ってきている。
しかし、老人の治療はそれだけではダメで、つまり、病院を作るにしてもその周辺の施設がどうであるかが問われる。病院では、1日45分のリハビリしか、健康保険で許されていない。
寝た切り老人の原因となる大きな問題は、脳血管障害である。ヨーロッパでは一番の原因は骨折だ。大事なことは脳血管障害となったらそのあとのケアーをできるだけ早くし、寝たきりにさせないことである。
リハビリをして、体を動かして治療をするわけあるがそれを日本では、病院の中だけでやろうとする。一方、患者の生活の場はベットの上だけだ。どうしてもベットの上に寝てしまう。食事もベットの上だけだ。本来なら食堂があればよいが、それがない状況だ。
ベットの範囲しか生活の場がない。当然寝たきりになりがちだ。介護されると気持ちの上でも楽になってしまう。ヨーロッパでは寝たきりにはさせておかない。無理して起こしてしまう。
そして、ベット以外の老人たちの談話室や外に散歩する道もたくさんある。その中で、自分に課せられた運動を一生懸命やっている。できるだけベットにいる時間を少なくするようにしている。このため寝たきり老人はほとんどいないわけである。
高福祉化で医療が低迷
ドイツでは、高齢化歯科は併設されていない。しかし、軍隊があるので、訪問診療、出張診療には慣れている。ハンディーな治療器具も整っている。また日本と違ってホームドクターという制度があるため、診療所を患者さんが渡り歩くということもしない。
そこでホームドクターの役割は、一生その患者さんの面倒をみることになる。日本は、その患者さんが寝たきりになったらどの医師が診るのか決まらない。ホームドクター制度がないので、かかりつけの医師がいても、なかなかいない。
日本は近いとタクシー代が出るが、ドイツは反対に40キロ超えるとタクシー代がでる。ホームドクターが近くにいるから40キロ以上の特殊なケースしかタクシー代がでないのだ。
また日本では予防に保険の報酬が払われない。スイスの場合は。予防にしか保険が支払われない。補綴はすべて自費だ。
日本のように薄く、広くバラまくという考えはよくないと思う。特に、その点イギリスは悪かった。ナショナルヘルスサービスで揺り籠から墓場までという高福祉を行った。
あれは、歯科医にとっても評判がよくなく、患者さんにとっても好ましくなかった。財源がなくなったために、歯科は25%給付で、75%が自己負担だ。
日本は評価が低く、すべて保険なので、がんじがらめである。しかし、イギリスを見てきて、日本は良い国だと思えるようになった。つまり、日本ではまだ、患者さんに現時点で最高の治療をやろうと思えば、できる余地がある。つまり、保険がきかなければききませんよ、という余地がある。医療とは、現時点で最高の治療をやるべきだ。
保険だけというのは、技術の出し惜しみである。やってあげたくてもやってあげられないのが保険診療でのジレンマだ。イギリスでは高福祉で広くバラまいたためできない。患者さんが、健康に対する価値観さえ持てば、やれる余地が日本にはまだある。
日本は民間保険を国が認めている。歯科医にとって光が見えてきたと評価したい。民間保険を必要としないというケースでは、歯科医と患者さんとの信頼関係で行う。
予防で実績高いスイス
スイスは予防に熱心で、子供から徹底的に努めておりむし歯は10年前の75%減少した。賛否両論があると思うが、これはフッ素によるものだ。まずフッ素を食卓塩に入れたそうだ。また、フッ素の錠剤を食後に噛ませた。
だから、もしむし歯になったら自費で直しなさいという考え方だ。国が予防の方向に力を入れ実績をあげたのだからあとは自分たちでやりなさいというのがスイスである。
つまり、イギリスとスイスは正反対であった。ナショナルヘルスサービスの財源はいわゆる17%の付加価値税からきているのだ。
いずれにしても、イギリスは低迷しており、スイスのような予防を主眼としたヘルスサービスにもっちきたいとの考え方もあり、多様化しつつある。
一方西ドイツでは、国際デンタルショーに参加したが、実に立派な内容であると思った。10ホールあり1回ではとても回り切れなかった。あれだけの規模のものを見ると歯科医療はまだまだ広がりを持つものだと、強く感じた。診療部門より技工部門がかなり注目されていた。
器材の流れは注目されたがドイツでは、技工部門の引き締め行われていた。全顎のゴールドブリッジが保険でカバーされていたが、テレスコープなどは1顎4本までがゴールドでできる、というようになった。
そして、その5割を患者が払うことになった。日本はまだ、そこまでもいっていない。ドイツは技術評価がとても高い。このため、歯科医も技工士もやりがいがとてもある。
日本は総義歯が13000円程度だ。ドイツとは比較にならない。日本は保険が質より量となっている。
高質の医療を追及する
日本の場合、一番問題となるのは、6か月ごとに義歯を新たに入れることができる制度となっている。
このために、生涯に多くの義歯を作り変えることになってしまう。患者さんもだから多少合わなくてもいいんだ、という考え方をしてしまう。これは恐ろしいことだ。
これよりも、たった1個の義歯でも、それがすごく長持ちをして、口の中で具合よく機能している質の高い補綴物の方がずっとよい。
ドイツ人のそのような考えによって生まれたのがテレスコープシステムだ。
安易な治療をバラまくのではなくよい治療を行うべきだ。国民の医療費が国によって決められている以上、保険医が増加をしつづけ、それを分配しているより、全然、決まっていない医療費(自費)を、よい治療をやって、患者さんに感謝されて、報酬を受けた方が望ましい。