稲葉繁先生が日本歯科医師会、医療管理委員会の委員長を務めていた時にまとめた報告書の内容です。
(平成12年3月)
この報告書の内容を今現在読み直すと、大変興味深くこれからの歯科医療のあり方が詳しく書かれていて大変参考になるため、先生方にご紹介していきたいと思います。
「いま、歯科医師は何をすべきか問われている時代に、国民の信頼を得る絶好の時が到来したと考えるべきであろう。」(本文より)
1.【序にかえて】
日本の歯科医療は患者様が何らかの自覚症状を訴えて来院し、初めて治療が行われるという治療優先の医療である。
しかし、現在の歯科医学は病気の発症の有無や、将来予測の可能性、リスクファクターの判定などができ、また、不幸にして疾病に罹患した場合には、様々な方法での対応が可能であり、患者様に最も適した治療法を選択することができる時代を迎えた。
そのためには我々がもっている専門知識を十分話し、患者様の健康を守るために最善の方法をよく説明する義務がある。
人生80年を時代に直せば70万800時間であり、毎日確実に24時間ずつ減っている。30歳の人ではすでに26万2800時間、50歳では43万8000時間経過したわけである。
人間は人生の幕切れを迎えるまで、生きがいのある人生を過ごすことができれば幸せである。歯科医師としてやりがいのある仕事を行い社会に貢献しようえはないか。
「空虚な目標であれ、目標を目指して努力する過程にしか、人間の幸福は存在しない。」
これは三島由紀夫の言葉であるが、「夢」を実現する目標のイメージをもっていなければ、決して夢は相手から近づいてこない。しかし、そのような気持ももたずに、ただ漫然と受け身になり、相手から与えられるものだけを受けていたならば、こんなにつまらない人生はないであろう。
このようなあきらめの気持ちは、生きがいのある人生には最も敵となるものである。
ただ、「昔は良かった」と振り返ってばかりいたならば、その瞬間に死んだも同然であろう。目標のない人生ほどつまらない人生はない。
目標の設定は、とりあえずやらなければならない目先の目標、3年あるいは5年の時間的余裕のある近未来目標をもち、自分の夢を実現するための将来目標を作り、それに向かって突き進むのが理想である。
我々の目標は、患者様に健康になっていただくことである。
そのためには我々が健康でなければならない。健康であるということは何物にも変え難いものであり、病気になることは自分自身もさることながら、家庭的にも社会的にも全ての面からマイナスになることである。マイナスになることに大きなお金が払われてはならない。
ここに予防の大切さが存在するのであり、小児期に歯科疾患を予防することにより、成人期以後の病気を予防することが可能になり、医療費の節減につながることが明らかになってきている。
そのため、これからの国民医療費を考えた場合、コスト・ベネフィットを挙げる最善の方法は、口腔内の健康を最優先して、全身の病気を予防することである。
いま、歯科医師は何をすべきかが問われている時代に、国民の信頼を得る絶好の時が到来したと考えるべきであろう。