日本人の死因は、昭和20年代前半までは結核が第1位でした。昭和20年代後半より第1位が脳血管疾患、第2位が悪性新生物となり、昭和56年より悪性新生物が第1位となりました。
現在では第1位が悪性新生物、第2位が心疾患、第3位が脳血管疾患、第4位が肺炎および気管支炎となっています。いわゆる3大成人病の死亡率は60%を占めるようになりました。
すなわち、感染症(急性疾患)から非感染性疾患(慢性消耗性疾患)への病気の質の変化が起こったのです。
これら3大成人病は生活習慣病ともいわれ、食生活を含めた生活環境などが誘因になっていることはいうまでもありません。
ここで注目すべきは、死因の4番目に肺炎があることです。
これは歯科医療と密接に関係があります。
肺炎の原因として口腔内からの細菌感染がしばしばおこることが知られています。とくに高齢者の肺炎の原因に誤嚥性肺炎が少なからず含まれていますが、脳血管障害の後遺症などの嚥下障害から、気管や肺に食物と一緒に細菌を誤嚥する結果、気管支炎や肺炎を惹起します。救命医療が発達することにより、今後ますますこのようなケースは増加することが予測されます。
その対策として入院患者や在宅要介護高齢者に対する歯科からのアプローチがおこなわれるようになり、高齢者施設や病院でも口腔ケアの認識は高まり、歯科衛生士の存在価値が認識されるようになりました。
また、歯科医療の現場では肝炎対策、HIV感染症対策が必至であり、今後の歯科医療においてはその対策が注目されると思います。う蝕や歯周病は歯科における2大疾患と言われ、最近では、これらの歯科疾患は感染症として位置づけられています。
したがって、予防が可能であり、今後は予防を中心においた歯科医院の増加が予想されます。
さらに、不正咬合、顎関節症を含めた疾患が増加してきています。それに伴い、歯科における治療計画も一歯単位から、一口腔単位、一顎口腔系単位、さらには全身を対称にした医療に変化してきています。今後の歯科医療においては「全身の中での口腔」を観点においた治療へ進むことは確実です。
歯科疾患も生活環境、社会生活が大きな誘因であることはいうまでもありません。食生活を含めた環境へのアドバイスができる歯科医師が増え、歯科疾患の減少のみならず、全身の健康によい結果をもたらすような治療方針が確立するならば、歯科治療の価値観が高まるばかりでなく、歯科関係に携わる人々の地位向上につながるでしょう。