わが国における総義歯の歴史のなかには、世界最古のも木床義歯の歴史が含まれる、それは1538年に当時としては長寿の74歳で往生した紀伊・和歌山の願成寺の草創者・仏姫の拓殖の木から作った木床義歯です。当時は現在のように優れた印象材や模型材もなく、咬合器もない時代に、適合性に優れ、噛める義歯を作ることができたものであると、感心してしまいます。当時の義歯の製作方法を調べてみると、非常に合理的であり、仏教芸術の伝統を受け継いでいることがうかがえます。
その製作法の鍵は、蜜蠟を使った印象採得と咬合採得を同時に行うことです。これは蜜蠟を鍋で温め、それを一塊として患者さんの口腔内に入れ、咬合位を決定した後に口腔内の形を採得するというものです。
一塊にしたものを上下顎に分けたのであるから、正確な咬合位の再現が化のになるのは当然です。
これまでの総義歯では上下顎の印象を別々に行うことが普通です。そのため正確な咬合関係の再現はかなり難しいです。
上下顎別々に印象採得を行い、その後上下を合わせて義歯を作るより、上下を一塊として口腔内より取り出しそれを2つに分割し、再び元に戻すような義歯製作のほうが理想的です。
このような理由から上下顎を同時に印象し、これを正確な咬合器に付着した後に上下に分け、精密な人工歯で再び上下顎歯列を1つに咬合させる方法が望ましいです。
稲葉繁の考案したシステムは、最終印象の際に上下顎を同時に印象し、そのままフェイスボートランスファーを行い、咬合器に付着した後に上下に分け、精密な人工歯で排列を行い、上下顎歯列を1つに咬合させる方法です。