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咬合の大切なポイント
【咬合の大切なポイント】
1.体の中心軸をつねに考える
歯科医療はとかく口の中だけをみがちです。顎の位置や動きが体のバランスに影響することは明確です。
患者さんの体のアライメント(中心軸)がくるっていないか、よい姿勢であるか診断することは非常に大切です。
そのためには、頭蓋の軸を考えた咬合管理が必要になってきます。
顎口腔系の機能異常のある患者さんでは、体の左右非対称が認められる人がいます。
歩く姿を観察しても、頭部をどちらかに傾けたり、左右の方を結んだ線が床と平行でなかったり、両側の手の長さが異なったりしていることがしばしば認められます。
また、診療室のドアを入ってから椅子に座るまでの間、顎を動かしたり、カチカチ、タッピングしている患者さんもみられます。
この動作も歯科的問題がある場合が多いので、姿勢の観察は大切なことです。
2.咬合平面は体の中心軸と直交する平面
体の軸について考えるとき、フェイスボートランスファーはとくに大切なものです。
体の中心軸は頭からかかとまで一直線に通っていて、その軸に直交する平面がいくつかあります。
床と平行な面としては、膝、腰、肩、眼の位置です。
咬合平面もまた、床と平行することが大切です。同時に両手の長さも一致しているのがよい姿勢であると言えます。
歯科医療で左右のバランスをとる場合には、フェイスボートランスファーは不可欠です。
フェイスボートランスファーした模型を咬合器の中心に合わせ、咬合平面を診断したり、補綴物を製作することが必要です。
したがって、フェイスボートランスファーを行わない咬合治療はあり得ません。
3. 咬筋と直交する断面に咬合力が入る
咬合平面は下顎切歯点と下顎第二大臼歯を結んだ平面です。
この平面に咬合力が入れば、その力は歯の歯軸と一致することになります。さらにこの力は下顎を挙上する筋肉の方向と一致することが望ましいです。
咬合力と咬筋の方向が一致するのが理想的です。
したがって咬合平面は咬筋の走行と直交するのが理想的であり、歯に対しても歯軸と咬合力は一致することになります。
4.頭の重さは8kg、それを支える頸椎の安定をはかることが重要
人類は脳の発達により、直立二足歩行に進化したとまでいわれていますが、重たい脳を支えるためには、長軸方向の最長部に載せるのが合理的です。
現代人の頭の重さは約8kgであり、最も重い16オンスのボーリングの球を脊柱の上に載せていると考えればよいでしょう。
この重い頭を支える脊柱は7個の頸椎と12個の胸椎、5個の腰椎からなり、頸椎は頸椎湾曲、胸椎は胸椎湾曲のように、各々カーブを描き、全体はS字状湾曲をしています。
頸椎は最上部の冠椎 の上に頭を載せているのみで、大後頭孔の中に入り込んで支えているのではないので、非常に不安定な状態です。
したがって頭を頸の筋肉で支えながら固定し、下顎を前後、左右、上下に自由に動かしているため、頸にかかる負担は非常に大きいのです。
咬合の影響を受けやすく、全身の骨格と連携する頸の安定を得るためには、バランスのよい咬合関係を作ることがきわめて大切です。
5.顎の形は5角形、将棋の駒と同じ
不規則な形状の表面に安定を求めるためには、3点を接触させることで最もよい結果が得られます。
これはカメラを安定させるために3脚を使うことにより、どのような形状の場所にも安定を求めることができるのと同じです。
キャスターつきのイスの場合、4脚では床の表面が不規則なとき3本の脚のみが床と接触して不等辺三角形が生じ、椅子の重心は中心から外れ、椅子の安定は得られません。
したがって4脚の椅子はガタガタし不安定となります。しかし5脚の椅子はどのような表面でも常に正三角形を形成し、椅子の重心は真ん中に集まり、大変安定します。
そのため治療用のドクターチェアは5つのキャスターがあり、重心は真ん中となり安定感があるのです。
下顎骨を真下からみると5角形をしていますが、それはあたかも将棋の駒のような形をしています。
すなわち、左右両側の下顎頭を底辺にし、両側の犬歯、中切歯、切歯点を頂点とする5角形です。
5角形はつねに3角形が3個できるため、下顎が動いた場合には常に3点が接触し、大変安定します。
下顎が前方運動、側方運動すると必ず3点が接触し、非常に安定する形状となります。
すなわち、、前方運動では、両側の下顎頭と切歯の3角形、側方運動では両側下顎頭と犬歯でできる3角形ができ安定します。
3つの3角形を合成すると、その重心は顎の中心、すなわち両側の第一大臼歯と第二小臼歯を結んだ付近にくることになります。
したがって、咬合治療は常に5角形をバランスよく作ることを目標にするといいでしょう。
6.咬合は上顎運動と理解する
映画「ジュラシックパーク」をみた方には、DNAの応用でよみがえった恐竜に人が襲われ、恐竜が頭を左右に揺さぶって人を食べるシーンを思い出していただけると思います。
もちろん恐竜は6500万年前に突然地球上から消え失せたのですから、人間と恐竜が戦うことはあり得ないことですが、全身を使った顎の動きはまさにすさまじいものがあります。
なぜ、そのように体を振り乱す行動をとり、顎を動かすのか考えてみましょう。
肉食恐竜のT-Rexの顎の形は直線的で、下顎に関節窩、上顎に顆頭という、人の関節とは上下が逆の形をしているため、咀嚼運動は全身の運動であるということができます。
現在の動物でこれをみることができるのは恐竜の生き残りである鰐(ワニ)です。
鰐も下顎に関節窩、上顎に顆頭を持ち、獲物に噛みつくと水中で全身を使ってバシャバシャと暴れながら食べます。
鰐は地表に下顎が着いていて、口を開けると動くのは上顎であり、上顎に顆頭があるので上顎運動です。
私たちも机の上に両肘を突き、その両方の手の平で顎を支えて開口運動、側方運動、前方運動を行うためには、頭を反対方向に動かさなければなりません。
すなわち、開口運動は頭を上に上げ、左右側方運動では頭を逆方向に動かし、前方運動では頭を後ろに引かなければなりません。
これを経験すると下顎はまさに全身の運動であることを実感できます。
したがって咬合は全身と密接に関係しているといえます。
7.顎口腔系の力は3級の梃子
顎口腔系のバランスをとるためには、顎に働く力のコントロールが必要です。そのためには顎に働く梃子現象を理解する必要があります。
梃子現象は支点、力点、作用点の関係で表され、その位置関係で仕事量が変わってきます。
正常な顎運動を行う梃子の形態は、3級の梃子から成り立っています。
すなわち支点となるのは顎関節であり、常に下顎頭が関節窩の中で関節円板を介して上壁と接しながら回転したり、滑走したりすることが重要で、常に下顎頭が支点となっています。
そのとき力を入れる力点は、咬筋、内側翼突筋、側頭筋などの下顎を上方に持ち上げる閉口筋であり、作用点は歯列となります。
この梃子は一般的にみられるのは魚釣りの梃子です。すなわち、釣り竿の胴突きが支点となり、腕が力点として竿を持ち上げ、その結果、作用点としての魚は歯列ということになります。
この梃子は能率的ではないが、魚を守るためには都合のよい梃子です。したがって歯列に急激な強い力をかけないためには3級の梃子がよいのです。
顎口腔系にもっとも為害作用を及ぼす梃子は1級の梃子です。
この梃子は最小の力で最大の効果を上げる梃子で、一般にみられるのはシーソー、栓抜き、鋏、スコップ、釘抜きなどで、支持アームが長く、抵抗アームが短い梃子。
すなわち力を入れるアームが長いため少ない力で重たいものを持ち上げたり、釘を抜いたりできるものです。
この1級の梃子が顎口腔系に働いた場合には、破壊力が強く、とくに顎関節に近い歯が支点となった場合には顆頭を引き下げる力として働くため危険です。
たとえば下顎第三大臼歯が萌出し、対合歯がなかった場合には挺出を招き、咬合平面を乱してしまいますが、それと同時に下顎前方位をとったとき下顎第三大臼歯の近心が上顎第二大臼歯の遠心に接触し、そのまま下顎を前方に突き出すと、ここのみが接触し、そのほかの歯は離開してしまいます。
そこで生じるのが第三大臼歯を支点として1級の梃子が働き、わずかの力で下顎頭を引き下げてしまう結果を生じ、下顎前方位で顆頭が下がると外側翼突筋の上頭と下頭のバランスが狂い、関節円板の前方転位を招いてしまう結果となり、顎関節症の原因となります。
したがって1級の梃子は絶対に認めるわけにはいきません。
8.咬合面は8つの要素から構成されています。
咬合面は山や谷のようになっています。そのそれぞれに意味をもち、役目をもっています。そのため平らであってはいけません。
咬頭と窩が嵌合し1つの関節を作っています。
そして下顎運動の際、お互いに邪魔にならないように溝の方向にしたがって導いています。
咬合面は咬頭頂、辺縁隆線、中心隆線、三角隆線、発育溝、副溝、副隆線、窩の8要素があり、それぞれ臼歯に存在し、それが対合歯と接触して16要素が顎運動にしたがって機能しています。
9.中心位と中心咬合位は確実に理解しましょう。
歯科医療を行う場合には、顎の位置と運動を理解していなければなりません。
とくに中心位と中心咬合位は完全に理解する必要があります。
中心位は、歯が存在しなくても上顎対下顎の位置関係において顎関節のもっとも安定した位置です。
すなわち、関節窩の中で下顎頭が関節円板に乗り、機能する中で最も後方で、最も上方、左右的に真ん中にあり、そこから自由に側方運動できる位置です。
したがって関節の機能する原点で、顎の動きの出発点でもあり、終着点でもあります。
無歯顎においても、この位置で人工歯により咬頭嵌合させて顎の安定をはかることが重要です。
中心咬合位は歯がなくても存在しない位置であり、後天的獲得位といわれます。
したがって、歯が生えてからできる位置です。
言い換えれば、歯の条件により常に変化する位置であるといってもいいでしょう。
噛みやすい位置があれば、下顎をその位置にもっていくようになりますが、そこを噛みやすい位置として脳は覚えてしまい、常にその位置に戻る習性が生まれるのです。
理想的な咬合位としては、中心位と咬頭嵌合位が一致している顎位です。
ここは咀嚼筋、頸部の筋などすべての筋肉が緊張なく、正しい頭の位置でバランスよくかむことができる位置です。
10.咬合面にはゴシックアーチが隠されています
中心位と中心咬合位が一致してバランスのよい顎位でかみ締めることができる位置が生まれると、そこから上下の歯は前後、左右に滑走することが必要です。
上下の歯は咬頭嵌合位、すなわち上顎舌側咬頭と下顎頬側咬頭が対合歯の窩に嵌合することで上下顎を安定させます。
そこから顎は前後、左右に動くのです。その際、下顎の運動に沿って咬頭頂が滑って行く溝が存在します。その方向は顎関節の動きにしたがい、歯の咬合面の上に溝として表れています。
すなわち、ゴシックアーチが咬合面に隠されています。
したがってこの方向に沿って顎は誘導されます。
このゴシックアーチを描くために必要不可欠なものが咬合器です。
投稿者 shige : 12:51 | コメント (0) | トラックバック
上下顎同時印象、本システムの利点
上下顎同時印象法を行って、総義歯を製作するシステムの利点はつぎのとおりです。
①咬合採得、ゴシックアーチの描記、フェイスボートランスファー、上下顎同時印象をわずか1回で行うため、合理的であると同時に来院回数の減少が図れる。
②咬合採得した位置で最終印象を行うため、顎位の誤差を生じない。
③印象採得中に嚥下を行わせるため、口腔周囲筋の印象採得が可能である。
④最終印象をフェイスボートランスファーし、咬合器に付着できる。
⑤印象面に口腔周囲筋、口唇、舌の形態を再現することができる。
⑥ニュートラルゾーンに人工歯を排列できる。
⑦サブリンガルルームを利用することにより舌による良好な維持が期待できる。床を後舌骨筋窩まで延長する必要がなく、舌の動きを阻害することがない。
⑧イボカップシステムやPVPMの応用により重合収縮を補正し、適合が良好なため、ヲーターフィルム減少を得ることができ、維持がよい。
⑨顎堤が極度に吸収している症例でも、頬筋、口唇、舌の維持ができる。
さらにこのシステムを応用し、オーラルディスキネジアや、脳卒中後の麻痺のある患者さんに対してよい成績を上げています、顎関節症を伴う総義歯患者においてもよい成績をあげています。
投稿者 shige : 13:41 | コメント (0) | トラックバック
従来の義歯の欠点
【上下顎を別々に印象採得する欠点】
上下顎を別々に印象する従来の欠点はつぎのとおりです。
①機能時の口腔周囲筋、口唇、舌の印象が不可能
②閉口時の印象採得が不可能
③上下顎に平均した圧力をかけなれない
④印象圧と咬合圧が同一ではないために患者の筋圧とは異なる
⑤術者主導の筋圧形成であるために患者さんの筋圧とは異なる
⑥開口印象では義歯の最後方の翼突口蓋縫線が延び切り、閉口時に空気の進入を防止できない
投稿者 shige : 13:32 | コメント (0) | トラックバック
最終印象を上下顎一対で採得する方法とは?
わが国における総義歯の歴史のなかには、世界最古のも木床義歯の歴史が含まれる、それは1538年に当時としては長寿の74歳で往生した紀伊・和歌山の願成寺の草創者・仏姫の拓殖の木から作った木床義歯です。当時は現在のように優れた印象材や模型材もなく、咬合器もない時代に、適合性に優れ、噛める義歯を作ることができたものであると、感心してしまいます。当時の義歯の製作方法を調べてみると、非常に合理的であり、仏教芸術の伝統を受け継いでいることがうかがえます。
その製作法の鍵は、蜜蠟を使った印象採得と咬合採得を同時に行うことです。これは蜜蠟を鍋で温め、それを一塊として患者さんの口腔内に入れ、咬合位を決定した後に口腔内の形を採得するというものです。
一塊にしたものを上下顎に分けたのであるから、正確な咬合位の再現が化のになるのは当然です。
これまでの総義歯では上下顎の印象を別々に行うことが普通です。そのため正確な咬合関係の再現はかなり難しいです。
上下顎別々に印象採得を行い、その後上下を合わせて義歯を作るより、上下を一塊として口腔内より取り出しそれを2つに分割し、再び元に戻すような義歯製作のほうが理想的です。
このような理由から上下顎を同時に印象し、これを正確な咬合器に付着した後に上下に分け、精密な人工歯で再び上下顎歯列を1つに咬合させる方法が望ましいです。
稲葉繁の考案したシステムは、最終印象の際に上下顎を同時に印象し、そのままフェイスボートランスファーを行い、咬合器に付着した後に上下に分け、精密な人工歯で排列を行い、上下顎歯列を1つに咬合させる方法です。
投稿者 shige : 13:10 | コメント (0) | トラックバック
Dr.shleichとの出会い
1978年、当時西ドイツのチュービンゲン大学歯学部補綴学講座ケルバー教授のもとに留学していた頃、イボクラール社のナソマート咬合器の研修会を受講しました。
そこで、同社の補綴部長をしていたDr.shleichによる総義歯の研修会に参加するチャンスを得て、初めてイボトレーを用いたアルギン酸印象材で行った上下顎同時印象によるスタディーモデルを見ました。
さらにその模型をコーディネータという水準器のような精密な器械を用いて正確に模型をマウントし、最終印象のためのゴシックアーチ描記装置を組み込み、精密印象を行うというテクニックでした。
人工歯排列、イボカップによる重合など見るものすべてが目新しく、日本では行われていない精密なテクニックでした。
しかし、このテクニックを用いてもデンチャースペースの印象は完璧ではなく、その後に稲葉繁が考案した最終印象を上下顎同時印象するシステムのきっかけになりました。
写真は平成5年に稲葉繁が代表を務めるIPSG包括歯科医療研究会発足の際、デモを行っていただいたDr.shleichとの記念に残る1枚です。
今でも家族同士の付き合いは続いています。
Dr.shleichが引退する際、彼の資料をすべて託されました。 膨大なスライドです。Dr.shleichの素晴らしい技術をさらに改良したのが、現在の「上下顎同時印象法による総義歯」です。
Dr.shleichがスタディーモデルまで、上下同時に印象をとっていたのに対し、稲葉繁は最終印象まで「上下顎同時印象」に改良したのです。
それをDr.shleichに説明したところ、素晴らしい、と喜んでおられました。 そしてこの技術を日本中、世界中に広めてほしいと強く希望されました。
稲葉繁先生の自宅、ホームパーティーにケルバー教授とシュライヒ先生を招いた、これも貴重な1枚です。
投稿者 shige : 09:47 | コメント (0) | トラックバック
咬合管理の重要性
本来、歯科医療には診療行為そのものと患者さん教育、啓蒙との二面性があり、日々の臨床においてそのどちらが欠けても満足のいく治療結果が得られないというところがあります。「適切な時期の適切な処置」さらに「適切な患者さん教育」を常日頃から心がけることによって、患者さんの信頼をより確かにえることができます。
患者さんが減少していく今後ですが、むしろ患者さん教育に費やす時間が増えたと考え、誰もが生涯自分の歯で過ごすことができる可能性が出てきたととらえるべきでしょう。
これからの医療において、疾病の治療から健康管理への転換、すなわちキュアよりケアに重きが置かれるようになると、歯科医師も否応なしにカウンセラーの役目を負わなければならなくなると思います。
そしてMinimal Interventionにより歯科医師の治療への介入が最小となり、国民が高齢者になっても多くの健康な歯を保有するという時代が遠からずやってきます。
歯科疾患の予防の最も大切なことは、よい歯列をつくることであり、それが生涯保たれることです。
しかし、疾病の予防が進んでも解決できない問題は咬合の管理です。
咬合を専門としているのは、他ならぬ歯科医師です。
これまで、歯科の業務は「歯」に固執しすぎていた感があります。疼痛除去に始まり、歯の実質欠損や歯の欠損に対し、元の形に戻す補綴処置ばかりにとらわれすぎ、生涯にわたる体全体のバランスを考えた医療をおこなってこなかったのではないでしょうか。
今後の歯科医療においては咬合を重要視し、歯科医師であるならば専門を問わず、咬合を最も重要視した医療を行うべきです。どんなに予防が進んでも咬合問題を解決できない限り、歯科疾患に対する根本的な対応はできません。今後の歯科医院は咬合管理に最も重きを置くべきです。
投稿者 shige : 13:21 | コメント (0) | トラックバック
全身と歯科医療との関係
日本人の死因は、昭和20年代前半までは結核が第1位でした。昭和20年代後半より第1位が脳血管疾患、第2位が悪性新生物となり、昭和56年より悪性新生物が第1位となりました。
現在では第1位が悪性新生物、第2位が心疾患、第3位が脳血管疾患、第4位が肺炎および気管支炎となっています。いわゆる3大成人病の死亡率は60%を占めるようになりました。
すなわち、感染症(急性疾患)から非感染性疾患(慢性消耗性疾患)への病気の質の変化が起こったのです。
これら3大成人病は生活習慣病ともいわれ、食生活を含めた生活環境などが誘因になっていることはいうまでもありません。
ここで注目すべきは、死因の4番目に肺炎があることです。
これは歯科医療と密接に関係があります。
肺炎の原因として口腔内からの細菌感染がしばしばおこることが知られています。とくに高齢者の肺炎の原因に誤嚥性肺炎が少なからず含まれていますが、脳血管障害の後遺症などの嚥下障害から、気管や肺に食物と一緒に細菌を誤嚥する結果、気管支炎や肺炎を惹起します。救命医療が発達することにより、今後ますますこのようなケースは増加することが予測されます。
その対策として入院患者や在宅要介護高齢者に対する歯科からのアプローチがおこなわれるようになり、高齢者施設や病院でも口腔ケアの認識は高まり、歯科衛生士の存在価値が認識されるようになりました。
また、歯科医療の現場では肝炎対策、HIV感染症対策が必至であり、今後の歯科医療においてはその対策が注目されると思います。う蝕や歯周病は歯科における2大疾患と言われ、最近では、これらの歯科疾患は感染症として位置づけられています。
したがって、予防が可能であり、今後は予防を中心においた歯科医院の増加が予想されます。
さらに、不正咬合、顎関節症を含めた疾患が増加してきています。それに伴い、歯科における治療計画も一歯単位から、一口腔単位、一顎口腔系単位、さらには全身を対称にした医療に変化してきています。今後の歯科医療においては「全身の中での口腔」を観点においた治療へ進むことは確実です。
歯科疾患も生活環境、社会生活が大きな誘因であることはいうまでもありません。食生活を含めた環境へのアドバイスができる歯科医師が増え、歯科疾患の減少のみならず、全身の健康によい結果をもたらすような治療方針が確立するならば、歯科治療の価値観が高まるばかりでなく、歯科関係に携わる人々の地位向上につながるでしょう。
投稿者 shige : 10:16 | コメント (0) | トラックバック
保険制度の限界その2
ブランド品で身を飾り、高級時計を腕にはめているが、口元をみるとびっくりすることがあります。
歯並びが悪かったり、笑った時黒い金属が露出したり、前歯が欠損していることもときにはあります。
しかし、この現象は必ずしも本人だけの問題ではないと思います。
歯科界の関係者が、歯並びは何が正常で何が異常なのか、どのような状態が健康を表すのか、真っ白で綺麗な歯はその人の人格とどのように関係するのか等を啓蒙してこなかった責任は大きいと感じます。
何のインフォームド・コンセントもなしに診療行為を行い、患者さんに対し、
「現在の歯科医療は保険制度の制約があるので責任は医療者にない」
「保険で縛っている医療制度の責任」
とばかりに平気で歯に黒い金属を被せたり、詰めたりしている現在の歯科医療の実態を考え直す必要があります。
白い歯は贅沢品である時代はもうとうに過ぎています。親から授けられた真っ白で真珠のような歯が光る口元にすることは当然です。
そうでなければ歯科医学は日進月歩で進んでいるとは到底いえないと思います。
国民はより価値の高いものや耐久性のあるものを求める傾向を示してきています。金額は少し高くても、価値のあるもの、理由のあるもの、必要なものにはお金を支払うという傾向が表れるようになりました。
これが信頼関係で結ばれた社会、すなわちコミュニケーション社会だと思います。
最近では、医療の質をすべて均一化し、医療を行うのがどのような者でも、すべて同じ評価を行っています。つまり、大学の高名な教授が手術を行っても、研修医が行っても同一の評価であるという不公平が生じています。
さらに、日本の医療費は国の財政により決定され、完全に統制が敷かれた制度です。旧ソビエト連邦で始まった社会主義が日本で完成されたと皮肉をこめて医療保険制度の評価をする人もいるほどです。
ドイツの保険制度では、保険点数において、大学教授は一般開業医の3~8倍の評価があります。また大学教育に協力していただく患者さんの負担を減らす目的で、学生の行う診療の保険点数は低く抑制されています。
経験や能力が均一化され、誰が治療してもすべて同じという評価は不公平の最たるものです。
日本の保険制度の最も評価できる点は、自由診療が許されていることです。
つまり、学問優先で質を守り、患者さんの利益となる方策がとれることが唯一の救いでしょう。
良質な医療は「適切な人」が「適切な方法」で「適切な時」に行う医療であり、希望する人にとって最善な医療が行われることです。
生体安定性が高く、安全でしかも安心できる医療を行おうとすれば、自ずから保険の範囲では不可能です。
歯科治療は自然治癒を導くことが少ない一分野であり、いろいろな生体材料を体の一部として用います。
そのため、材料費、技工料などが必要であり、これが一般の医療にはない特徴であり、歯科医療費が高額になる原因です。
しかし、国の財政の制約のある保険医療の下では、不十分な歯科材料を使わざるを得ないのが現状。
このあたりの事情を国民に知ってもらう必要があります。
歯科医師が保険中心の医療に麻痺しているため、国が指定しているのであるからといって、何の疑いもなく不十分な材料を使用するのは恐ろしいことです。
投稿者 shige : 12:49 | コメント (0) | トラックバック
保険制度の限界
昭和36年から始まった国民皆保険制度は当時の経済状況の中で、医療の恩恵を国民が誰でも受けることができることを前提とした、いわゆる弱者救済を基本にしたものです。
憲法で保障されら健康保持の権利を守るために生まれたもので、最善で最新の医療をうけられる制度とはいえないものです。
世界に誇る日本の保険制度とはいっても、その内容はとても高いとはいえません。
私たち歯科医師自身が治療を受けようと思った時、この保険精度の枠の中だけで治療してほしいと思う人は皆無であると言っても間違いと思います。自分の口の中に黒い金属の12%金パラを使い、見えるところに金属の被せ物をしたり、歯を失ったところに「ばね」のついた義歯を入れたいと考える人は少ないでしょう。
その結果として、多くの歯科医師が保険の範囲の中で努力して治療を行っても、最終的には歯を失っていく構造が出来上がっているのです。事実、この保険制度の結果は歯科疾患実態調査に現れています。
現在の保険制度は、歯科医師が努力しても報われない制度です。国民にとってもまじめに治療に通っても最後は歯を失ってしまう結果となります。
歯を失わない予防対策が実施されるような制度に転換していかなければなりません。
諸外国においては、すでに保険でカバーされるのは予防のみで補綴は一切除外される傾向にあります。
歯科治療をしたことを他人に悟られずに自然にみえるようにするのが本来の目的です。日本人の誰もが美しい歯並びをもち、白い歯の笑顔がみられるようになってこそ、歯科関係者の地位が高まり、国際的にも日本の評価が高まるでしょう。
このような感覚を身につけるためには、保険制度の改革が必要であり、保険制度を中心とした大学の臨床教育から、本来あるべき「最善の医療」を考えた教育への転換が必要不可欠です。
世の中は健康ブームで、健康のためにフィットネスクラブや個人トレーニングに通い、大変盛況なようです。
通信販売での健康食品も飛ぶように売れています。
このような風潮を歯科界に上手に導くことが必要です。その傾向はみえ始めています。口元を綺麗にしたい、歯を綺麗にしたいという願望が強まってきています。ホワイトニングや、セラミック治療で白い歯になりたいという人も多くなってきています。
しかし、そのような治療は健康保険では対応できません。
国民の歯科医療に対する要求と健康保険制度の間にアンバランスが生まれた結果、国民の歯科医療に対する不信感が増すばかりです。
保険ですべての治療ができるというような誤解を生む発言は避けるべきであり、治療の限界を正しく知らせるべきである。そうでなければ歯科医療の発展は望めないばかりか、国民が不幸になってしまいます。
投稿者 shige : 16:05 | コメント (0) | トラックバック
はじめに
2004年に日本歯科評論から出版された日本歯科大学前教授、IPSG代表の稲葉繁編著、
「予防補綴のすすめ」
「はじめに」 のところで、こんなことが書かれていました。
ちょうど第28回アテネオリンピックが開催された年でした。
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オリンピックの報道の中で 仕事柄、どうしても各国選手の歯並びが気になりました。さしあたりアメリカの選手はどの選手をみても口元が綺麗であり、歯並びに関してメダルを差し上げるならば金メダルでしょう。
それに引きかえ、日本の選手は歯並びの悪い選手が目立つと感じたのは私だけではないと思います。
経済大国とはいうものの、国の医療政策か、個人の価値観かどうかわかりませんが、歯に対する価値観が各国で異なっていたのを興味深く感じました。
日本を除く各国の選手は歯並びがきれいであったのは動かしがたい事実です。
最近の歯に対するテレビコマーシャルは大変教育的です。歯の病気の予防を訴え、むし歯の原因をわかりやすく解説したり、外国の教授が講義風に歯周病を説明したり、フィンランドの子供たちの虫歯罹患率が低いのはなぜかなど、歯科と関係のない人々にも理解しやすいように、大変効果的に行っています。
キシリトールの国民認知率は90%を超えていると言います。
まさにう蝕予防は民間から始まり、国民の多くが虫歯は予防できることを認知しています。
あまりにも保険点数ばかりを気にしすぎて国民を置き去りにしているのではないでしょうか?
現在のように歯科医療の中で予防が進まず、う蝕を削りまくっているならば国民からの信頼が薄れるのは間違いありません。その結果、国際的な場でも、日本の歯科医療政策の遅れという面で、大きく恥をかいてしまうことになってしまいます。
歯科医療は国民の健康を守ることが優先されなければならず、それには歯科医師も国民も満足できる医療を提供することが大切です。すでに医療は「サービス」であることがはっきりと打ち出されています。
これは国民の意識の変化や医療環境の変化から打ち出されたものです。
投稿者 shige : 14:36 | コメント (0) | トラックバック
「咬合治療の臨床」開催されました。
「咬合治療の臨床」セミナー、開催されました。
スタッフ総勢32名、この小さい会場にこんなにたくさんの人数で開催されたのははじめてです。
中心位、中心咬合位の違いを理解することはとても大切です。
中心位(centric relation、CR)とは、下顎頭が関節窩内で緊張することなく、関節円板にのって機能する中で、最も後方で上方の位置。そこから自由に側方運動が行われるときの頭蓋と下顎骨の位置的関係です。
歯の接触による誘導はありません。下顎頭上縁 が中心から45度で接触する位置だそうです。「関節円板にのって」というところが非常に大切です。
一方中心咬合位とは後からできたものです。噛みやすい位置、最大面積で歯と歯が接触している位置のことです。中心咬合位は変わります。
咬合診断は何をするのでしょうか。
形態的診断として、◆全身との調和がとれているか◆頭蓋との3次元的位置関係を診断◆頭蓋との3次元的形態を診断◆審美的診断
機能的診断として ◆下顎位の診断◆下顎運動の診断◆咬合様式
を調べます。
基準3平面は
◆水平面 Horizontal plane Monson curve Willson curve
◆矢状面 Sagittal plane
◆前頭面 Coronal plane
ですが、この平面を基準にしてフェイスボートランスファーをします。
フェイスボートランスファーをすると、かみ合わせの平面が斜めになっていることがよくあります。模型だけだ と水平面がわからないことがあります。咬合器に付着した模型でないと、精密な歯の診断はできません。技工士に補綴物を送っても、咬合器につけたものでないと、平面がわからないことがよくあります。
上顎、3本しか残っていないような症例のフェイスボートランスファーはかなりシビアに記録しないといけません。基準がほとんどないです。なのでフェイスボートランスファーでもウォッシュが必要です。
症例の中で稲葉先生が
「上顎の義歯で口蓋がない悪い症例です。」とスライドを見せて説明。
「どうしてですか?」の質問に
「口蓋はかみ合わせの支持をするところだからです。嘔吐反応をよく言うことがありますが、口蓋ではでません。舌根部で嘔吐反応はでます。 だから口蓋はしっかりつけてください。」
とのことでした(^▽^〃)
twitter(←ここぽちっと押してください。) からもいつものように中継しました。
↓ ↓ ↓
審美の分析、アピアランスガイドについて説明。歯の色の調和だけではなくて、全体の口元のバランスが審美修
復には重要です。
ABCコンタクトのバランスについて説明、咬合調整の時、Bコンタクトを削ってしまうと歯がすべってしまい
ます。(歯が移動してしまいます。)上顎の歯の舌側内斜面と下顎の頬側内斜面がBコンタクトです。
「咬合面の8つの要素」をとてもわかりやすく説明。咬頭頂、辺縁隆 線、中心隆線、三角隆線、発育溝、副溝、副隆線、窩 です。発育溝のぶつかり合ったところが窩、ですね。歯に適当な溝はついていません。
参加してくださった先生、皆さん、とても真剣でした。明日からの臨床にすぐに役立つことたくさんあったと思います。
本当にありがとうございました!!
投稿者 shige : 10:34 | コメント (0) | トラックバック
創造の医療
近年インターネットの進化はすごいですね。ipad、早速私も注文しました!
日本歯科評論から出版された前日本歯科大学教授 稲葉繁、「予防補綴のすすめ」シニア世代の健康を支える歯科医療についてその内容をご紹介したいと思います。
20世紀、科学、産業、経済の発展は目覚ましく、医療の面からみると、臓器移植、遺伝子治療、クローン技術、臓器の再生医療などの技術革新など飛躍的に発達しています。
一方、歯科はどうでしょうか?
歯科医療の面では、残念ながら目を見張るようなものは見られません。
とくに臨床面での遅れが目立っています。
患者さんの口の中が黒い金属で埋め尽くされ、見えるところでさえ、白い歯とはあまりにも異なった歯が装着されていることは、とても先進国とは思えない状況です。
生体安定性が高く、腐食せず、母親から授かった歯と同じ色の材料が使われなければ、歯科医療が日進月歩の発達をしているとはとてもいえません。
むし歯、歯周病の2大疾患の原因は判明しているにもかかわらず、原因除去が行われず、病気になってから治療を行うというシステム、さらに医療費の節減がこのような結果を招いてしまったのだと思います。
今後は病気の原因を取り除くことを中心にむし歯や、歯を失ったとしても、もとの天然の歯に最も近い方法で回復し、機能を果たすことができるような治療を行わないといけません。
歯科医院はそのほとんどが個人の経営です。そのため個人の自由な発想が生かされるべきです。
個人の技術や学問が社会に制限される必要はなく、個々人で自分の患者さんを守ればいいと思います。
患者さんと歯科医師が十分話し合い、信頼関係の上に現在の最も良質な医療を実行してこそ、私たち歯科医師は生きがいがもてるのです。
自分が治療をした患者さんは責任をもってメンテナンスをしていくことが大切です。
投稿者 shige : 08:30 | コメント (0) | トラックバック
予防補綴
「予防補綴」という言葉を聞いたことありますか?
以前から稲葉先生が推奨していた言葉なのですが、
2004年に日本歯科評論から出版された「予防補綴のすすめ」(←ココ押すとリンクされます。)という本をだして、全国の先生に伝えました。
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国際歯科連盟(FDI)では2000年にMinimam Interventionという新しい概念を学会誌で推奨した。
我が国でもMIの概念として、歯科医療における最小の介入が叫ばれており、歯を切削することがあたかも罪悪 であるかのように訴えてる。確かに自分の歯で一生を送ることができれば最高の喜びであり、誰もがそれを望み、実現したいと願っている。
中高年で咬合の崩壊が予測される場合には積極的に咬合の回復と、永続性のある歯の固定を行う必要があると判断しなけれ ばならない。
そのような結果を招かないためには歯の切削を行い、全顎的に歯の固定を行うとともに、咬合の安定を図り、長期に口腔内で昨日する補綴を行うべきである。
筆者はこれを「予防補綴」と位置づけ、機をみて最大限に介入(Maximal Intervention)する必要があると考えている。
結果として残存歯が長期的昨日できるような方法を選択し、老後のQOLに寄与する補綴を選択するべきである。
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そうですよね。
すでに悪い状態の口腔内の患者さんに対して、MIをしていたら、どんどん歯を悪くしてしまいます!
同じMIでもMaximal Interventionをある時期からすすめるなんて、稲葉先生しかいませんね。
「予防補綴の すすめ」もしも読んでいない先生がいらっしゃいましたら、ぜひおすすめの一冊です。
歯科評論(←HPです)から
出版されています。
2004年に出版されたものですが、今、このときを予測していたかのような内容です。