1996年に共同通信社より、全国31の新聞社で掲載された稲葉繁先生の記事をご紹介します。
先日、倉庫をゴソゴソと探っていたら見つけました。
書いた本人も忘れていた記事なのですが、患者様にはもちろん、私たち歯科医師にとっても興味深い内容です。そのまま新聞の内容を載せます。
お年寄りの口腔異常
【舌の痛みや不快感】
口の中の異常で悩んでいるお年寄りは意外と多いです。
だ液が出なくなったり、ねばついたりしてひどい場合は、口の中がヒリヒリ痛むほか舌が痛くなるケースもあって大変つらいといいます。
こうした口腔異常とカビの一種の真菌のカンジダ増加の関係に注目が集まっていいます。
日本歯科大学の稲葉繁教授(当時)は「口の中で増加したカンジダがさまざまな悪さをする」と話しています。
加齢で機能低下
口腔異常と切ってもきれない関係にあるのがだ液です。だ液腺は大きく分けて三つ。ほおのところの耳下腺、下あごにある顎下腺、それに舌下腺です。
そのだ液の分泌量は成人で一日当たり1~1,5リットル。ざっとビール瓶2本に相当します。
だ液は多種多様な働きを持ちます。消化酵素を含んでいて消化を助ける、口の中を潤して食べ物を飲み込む際の潤滑剤の役割をするほか、口の中の掃除もします。
さらにわずかながら殺菌作用もあります。
ところが、加齢とともにだ液腺の機能が低下してだ液の分泌が少なくなる事があります。だ液の出が少なくなると、厄介な問題がでてきます。
食べ物がくっついてなかなか飲み込めなくなる上、口の中が不潔になってしまうからです。
「口の中には知られているだけで数十種類のバクテリアがすんでいるが、特に入れ歯をしている場合は、不潔になってカンジダが増えやすい」と稲葉繁教授
日和見感染で
しかもお年寄りの場合は免疫力が衰えていることもあって、日和見感染を起こしやすくなっています。お年寄りにカンジダが感染しやすいのは、こうした背景にあります。
稲葉教授が高齢者歯科診療科の受信者の男性115人、女性149人を対象に調べたデータがあります。
その結果は、だ液1ミリ当たりのカンジダ菌数が十万個以上が男性で11人、女性では12人に上り、このうちの半分はカンジダが百万個医療に増加していることがわかりました。
いずれも歯や口腔の病気をもった患者さんですが、これらの事実はカンジダの感染者が決して少ない数字ではないことを示しています。
「受信者の95%近くからカンジダが見つかった。1ミリリットルあたり千個程度ならほとんど問題にならないが、十万個以上だといろんな症状がでてくるようになる。実際に受信者の5%以上が不快感や痛みを訴えていた」と稲葉教授。
その症状とはどのようなものなのでしょうか。まず舌が焼けるように痛んだり、感想しているときに感じたりします。また、塩辛いものを食べて、ときに口の中がヒリヒリしたり、味がおかしいなどの感じがしたり、口の中が粘つくなどの不快感を訴えているケースが多いです。
肺炎の原因にも
症状が全くないケースもありますが、カンジダが見逃せないのは、内蔵真菌症の犯人になる点です。
弱ったお年寄りの内臓をカンジダなど真菌が侵してしまったらひとたまりもありません。
こうした内臓真菌症の患者さんがこのところじわじわ増えていて、高齢化時代の新しいタイプの病気として注目を集めています。
「口の中にカンジダが増加して食道カンジダ症や肺炎の原因になることもあります。そのためにも口の中を清潔にすることが大切で、お年寄りでは入れ歯の清掃
をこまめにする必要があります。だ液が粘ついていたりしておかしいなと思ったら、洗口液を使用すればかなり予防できる」 と稲葉教授は訴えています。
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当時この記事を見た、舌に痛みがある患者さんが大学に殺到したそうです。
「そうか・・・新聞にでていたからか。」←いまさらながらわかったようです。
お年寄りのお口のケアの大切さは全身に関係します。
私たち歯科医師も注意深く診る必要があると感じました。