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摂食嚥下訓練器具『ラビリントレーナー』について【その4】
◆摂食嚥下訓練器具『ラビリントレーナー』について【その4】
ということで、今回は、哺乳瓶の弊害についてお伝えしたいと思います。
間違った種類の哺乳瓶を使うことにより、 舌が間違った飲み込み(嚥下)方法を脳に記録してしまう・・・
それにより生じる、歯並びの異常、発音の異常が生じることについてなど、お伝えしたいと思います☆♪
ラビリントレーナーが開発された、原点の話です。
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発音の悪さが目立つ時代
近頃テレビを見たり、ラジオを聞いていると、発音の悪い人が目立って多くなってきた気がします。
それも戦前、戦後の食糧事情があまり良くない時代に育った中高年の人には見られず、景気回復の兆しが現れてきた昭和30年代以後から飽食の時代といわれる現代に生まれた人たちの中に多く見受けられます。
最近の若い人、アナウサーやキャスターでさえも発音の悪さが目立っているのはなぜでしょうか。
「サシスセソ」と「タチツテト」の発音が区別できず、甘ったるいような、聞き取りにくい発音をしている人がいます。
このような人を気にしてみていると、例外なく歯並びが悪かったり、オープンバイト(前歯が開いている噛み合わせ)である人が多く、特に前歯が叢生(歯並びが悪い)で、犬歯が八重歯になっていて大変気になります。
このような歯並びの状態の人たちは、ただ単に見た目が悪いと言うだけでなく、将来審美性の問題や顎関節症の治療の必要性を抱えた潜在治療困難患者であり、将来必ず歯科治療を希望して来院することが予想されるからです。
哺乳瓶の歴史は100年
人類の進化過程では、自然環境の中で生活し、食糧も動物を捕獲したり、植物を採集し、自然の食物を摂取してきました。
人工的に食物が栽培されたり、家畜が飼われて、それを食糧として生活したのは農耕文化が入ってきた縄文時代以後のことでしょう。
前期弥生の農耕民の遺跡から、親子の牛の遺体が発見されています。土師器文化期になると家畜の飼育が盛んになっていることから、1400年前には牛乳の飲用が行われていたと考えるのが妥当だと考えられます。
そこでは、子どもを育てる場合には母乳による保育が行われていたことは当然ですが、家畜から乳を母親代わりに与えたことも考えられます。
牛乳の与え方も、器から直接飲ませたり、匙のようなもので与えたのではないかと想像されます。
粉ミルクを哺乳瓶で飲ませるのが一般に広まっていたのは戦後になってからのことです。
牛の乳を哺乳瓶を用いて飲ませるようになった歴史は比較的新しく、1897年(明治30年)前後にオランダ製口吹ガラスのものが、ごく一部の人に使われたのが最初と言われます。
それまで竹の筒におかゆ等を入れ、飲んでいました。
進化過程を再現する胎児
宇宙の惑星である地球上に生命が誕生したのは、今から40億年前にさかのぼります。
太陽からの紫外線を避けて、海中に原生動物が誕生し、その後デボン紀に硬骨魚類が生まれ、進化をした魚は両性類として陸に上がってきました。
その後、爬虫類が生まれ、哺乳類が出現しました。
ドイツのヘッケルは「個体発生は系統発生の繰り返しである」という設を唱えました。
それは、卵から発生が進んで成体に達するまでの過程は、その生物が辿ってきた進化の過程を短時間で再現している、というものです。
母親の胎内で一個の卵子と精子が結ばれ、受精卵ができ、生命への第一歩を迎えます。
その後、母親の羊水の中で39週間を過ごし、その間12~15週間には、羊水を飲み始めると同時に、生まれてから母親の乳頭に吸い付くための準備運動である指しゃぶりを始めます。
このことは最近の超音波診断器の発達により証明されています。
うまれてからは、しばらくたつと手と足を使い上手に腹這いを始め、高這いを経て、体を浮かせ立ち上がります。
これは、生物の進化過程と同じ経路を辿っているように思います。
海水中の魚から両生類として陸へ這い上がり、爬虫類を経過して哺乳類となり、直立二足歩行が完成するのと同じということです。
お乳は、吸ってもらって初めて出る
人間の胎児は、哺乳動物としては未熟のまま生まれてきます。
つまり、大脳皮質が良く発達しているため、頭が大きく自力で立ちあがることができません。
そのため自分から母親のお乳を吸いに行くことができず、母親からの授乳により生命が保たれます。
哺乳という行為は自然の摂理であり、赤ちゃんが乳頭を吸うことにより、下垂体から分泌される催乳ホルモン・プロラクチンによって乳汁が促され、積極的に授乳することで、十分な母乳が出てきます。
小児科医は
「お乳は出るから赤ちゃんに吸わせるのではなく、赤ちゃんい吸ってもらって初めて出るのです」と訴えています。
人間の進化過程で、現在のように人工的に哺乳瓶を用いて母親の代わりに授乳させてきた時代はなく、それは乳児の成長に大きな影響を与えています。
どんな乳頭の形態といえども、人間の乳首に勝るものはありません。
乳児期に良い歯列(歯並び)を作り出す大きながっしりとした顎を母乳により作り上げる必要があります。
母親の胸に抱かれての授乳は、生まれたばかりの赤ちゃんにとって最大の運動であり、額に汗を流しながら夢中になって母親の乳頭に吸い付き、疲れ切ってすやすやと眠りに入ります。
しばらくすると思い出したかのように再び吸い始めます。
この行為は口の周りの筋肉発達、歯並び、発音に非常に重要であり、誤った哺乳行動は、舌の機能障害を生む要因となります。
その結果、ディスクレパンシー(歯並びが悪くなる)を引き起こし、発音の悪さに大きく関わりあいがでてくるということです。
国産のニップルは乳頭が長くて穴が大きく、空気孔もあり、努力しなくても乳が出ます。
こちらは、ドイツのNUK社の乳首です。
母乳と似たような哺乳行動がとれるように設計してあります。
国産のものに比べ、空気孔は小さく、一生懸命吸わないとミルクがでないようになっています。
こちらは、NUKのおしゃぶりを吸っている赤ちゃんです。
2013年02月28日 | コメント (0) | トラックバック (0)
摂食嚥下訓練器具『ラビリントレーナー』について【その3】
◆摂食嚥下訓練器具『ラビリントレーナー』について【その3】
ということで、今回は、舌の正しい使い方、間違った使い方がなぜ生じるか。
そして、哺乳行動(赤ちゃんがおっぱいを飲む行動)と顎の発達
についてお伝えしたいと思います☆♪
ラビリントレーナーが開発された、原点の話です。
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哺乳(おっぱいを飲む)行動と顎の発達の相関
以前、日本にしばらく滞在していたドイツの大学の歯学部教授から、
「日本の若い人には、犬歯が唇側転移している例を多く見かけるが、何故なのか」
という質問があり、かなり日本人の歯並びの悪さが気になっている様子でした。
欧州では、八重歯はお揃えいい吸血鬼ドラキュラの牙と同様に見られ、あまり良い印象を受けないために、そのような質問が出たのではないかと思います。
ドイツでは乳幼児の顎の正しい発達のために、Dr.MüllerによりNUKのニップル(哺乳瓶の乳首)が開発されました。
これは乳児の発達程度に合わせ、ニップルの大きさやミルクの出る穴の大きさを変えて使用できます。
この乳首の持つ機能は、母親の乳頭に最も近似していて、乳児が正しい舌の使い方をするとミルクが出てくるように設計されています。
正常な哺乳行動では、乳児は母親の乳頭を口にくわえ込み、乳首を舌先で強く口蓋に押し付け、数か所の乳管開口部から分泌される乳汁を飲み込みます。
そのとき、唇に力を入れて吸引しながら下顎はわずかな前後運動をすると同時に、舌は口蓋へ押し付けられます。
その結果、乳児は舌の正しい動きを学習し、口唇には力が付き、口蓋は広大し、歯の生えてくる十分なスペースを確保することができます。
人工授乳においても、このような哺乳行動が行わなければ、正しい顎の発達は望めません。
NUKは、この点を考慮して開発されたものです。
つまりNUKのニップルでは、ミルクの出てくる穴が口蓋側にあり、舌で押し付けることにより、ミルクは口蓋鄒壁に沿って排出され、舌いっぱいに広がった後、飲み込むように設計されています。
同時に咀嚼筋(口の周りの筋肉)の発達を促し、口の周りの機能は正常に発達してきます。
適正でないニップルの弊害
通常市販されているニップルは、乳首が長過ぎ、そのうえ大きな穴が先端にあり、しかも空気の取り入れ口まであるために、哺乳瓶を傾けただけで自然にミルクが流れ出してきます。
こうしたニップルを用いた場合には、乳児の意思に関係なくミルクが出てくるために、乳児は何の努力をしなくても、ただ飲み込むだけでよいということになります。
この場合、乳児は舌を細長く丸めニップルを包み込み、自分の意思とは関係なしに出てくるミルクをストップさせるために前方に押し付け、ピストン運動をするように前後に動かします。
その結果、人生の出発点である乳児期に間違った舌の運動を学習してしまい、飲み込み(嚥下)運動の際、舌を口蓋鄒壁(こうがいすうへき)に押し付けることができず、前に押し出す癖を脳に刷り込んでしまいます。
このような癖を持った人が成長すると、不正な歯並び、それに伴う発音の異常、さらに顎関節症等、様々な症状が現れてくることが予想できます。
飲み込み(嚥下)運動の際、口蓋鄒壁に舌を押し付けた場合には、舌は下顎側にあるため、下顎は後退し、顎がリラックスできる位置とほぼ一致するため、バランスが保つことができます。
逆に舌の突出癖がある場合には、下顎は飲み込みの回数に応じて前後に動きます。
通常、飲み込み(嚥下)は一日に600回から2000回といわれるので、この癖を持つ人では、正常者に比較して、下顎の前後運動に関与する筋の疲労が増すことが当然考えられます。
舌は下顎の水先案内の役目をしており、舌を前に突き出せば、それに伴って下顎は自然に前に出て行き、舌を側方にだせば下顎も同じ方向に移動します。
したがって舌の動く方向に下顎も移動することになります。
舌を突出させる飲み込み(嚥下)運動は正常な筋肉の使い方ができず、頬筋、口輪筋、オトガイ筋という口の周りの筋肉の緊張が強く現れてきます。
このようなアンバランスな筋肉の使い方の結果、臼歯は頬筋の緊張の影響で頬側から力を受け、歯並びは狭まり、前歯が広がり臼歯は内側に倒れてくる、Ωオメガ型歯列を形作ってしまうことになります。
舌圧の研究
飲み込み(嚥下)をした時の口腔周囲の筋肉の圧力に関しては、舌側からの圧力よりも強いと言われています。
「正常咬合者と不正咬合者の上下前歯部における口腔筋圧の研究」という根津の報告によると、正常咬合者の場合、安静時には、上顎唇側圧平均7.2g/cm2、同舌側圧平均10.1g/cm2,下顎では唇側圧8.6g/cm2、舌側圧14.6g/cm2であり、上下とも舌側圧が唇側圧を上回っていました。
さらにつばを飲み込む時では、上顎唇側圧は60.0g/cm2、同舌側圧は123.2g/cm2で、舌の圧力が唇の圧力の2倍を示した興味ある結果を得ています。
この報告から、舌の力と唇や頬の力の不均衡が起きることにより、歯並びが悪くなることは容易に納得できます。
歯並びが悪い方は、飲み込み嚥下の際に上下の歯列の間に舌を突出させています。
「サ行「「タ行」「ラ行」の発音の際にも舌の突出が見られ、明瞭な発音の違いを区別できない結果となります。
このようにして、歯並びが崩れた治療に際しては矯正治療やかぶせ物の治療を行うことがしばしばありますが、見かけだけの修正という現象のみを治しても、その症状を現した原因を除去しなければ、発音の異常や口の周りの機能異常を治癒させることは不可能です。
「生命現象とは、内部環境を恒常に保つための努力である」といわれます。
生きている人間の心身は動揺しつつ安定を保っているものであって、もし恒常が破れて安定状態に戻ることができない程になったとき、それは病気となります。
そのため、人間の身体全体を考えたとき、どの部分から見てもバランスがとれ、左右・前後に偏らないことが理想です。
これは歯の位置についても同様です。
嚥下の際の舌は口蓋鄒壁に押し付けた後、舌背部を徐々に押し付けていきます。
◆根津論文(歯学学報より)
ラビリントレーナーは、このような舌の癖、飲み込む時の癖を、治すために、開発されました。
そして、発案後、様々な効果があることを発見しました。
次回も、歯並びや発音が悪くなる原因について、より詳しくお伝えいたします。
2013年02月27日 | コメント (0) | トラックバック (0)
摂食嚥下訓練器具『ラビリントレーナー』について【その2】
摂食嚥下訓練器具『ラビリントレーナー』について【その2】
◆ラビリントレーナー発案のきっかけ
稲葉繁先生が大学院の頃、今から40年以上前、舌の働きに興味があり、舌の文献を沢山集め始めました。
そして、同時に顎関節症の研究もしていたので、よく観察しているとどういうわけか、顎関節症の患者様の舌の圧痕、歯の形の圧痕、口蓋鄒壁の肥厚をみつけ、気になり始めたそうです。
▼顎関節症の患者様で舌のところに圧痕があります。
▼圧痕は、歯の形に沿っているのがご覧いただけるかと思います。
たまたま、30年ほど前、今の筋機能療法学会の大野先生という方が連れてこられたアメリカのツィックフーズという医学療法士の講演を聞く機会があり、マイオファンクショナルセラピーのことを知りました。
マイオファンクショナルセラピーとは筋機能療法のことで、間違った口の周りの機能をされている方を正常にバランスのとれた状態に戻す療法です。
口の周りの機能とは、つばを飲み込む、食事をする、発音をするなどです。
当時は顎関節症と舌壁(舌の間違った使い方)の関係について全くやっていませんでした。
ツィックフーズ先生の講演の後、稲葉先生は質問したそうです。
「顎関節症と舌壁の関係についてどう思われますか?」
当時の答えは、
「わからない」 だったそうです。
その後、稲葉先生は一生懸命舌の働き、さらには嚥下(飲み込み)機能のやり方について研究してきました。
『咀嚼・嚥下・発音』を育てるには、元をたどれば母乳からなんだということも、その時確信しました。
出だしを間違えると生涯の問題になります。
実際に間違った飲み込み(嚥下)機能をしていることにより様々な障害があるということがわかりました。
このような経緯で、ラビリントレーナーを発案しました。
具体的には、東急ハンズへでかけていき、温度によって形が変形するシリコンをみつけ、稲葉先生自身が、自分の口の中に入れてみて、唾液(つば)を飲んでみたり、口の周りの筋肉を動かしてみて、口の中から取り出してみたのが、まさに今の『ラビリントレーナー』の形となりました。
舌の機能を40年間研究してきた集大成でもあります。
次回は、哺乳行動(赤ちゃんがおっぱいを飲む行動)と顎の発達についてお伝えいたします。
2013年02月26日 | コメント (0) | トラックバック (0)
摂食嚥下訓練器具『ラビリントレーナー』について【その1】
◆日本の3大死因、肺炎が、脳血管疾患を上回りました
日本の3大死因とは、「悪性新生物」(がん)、「心疾患」、「脳血管疾患」で、人口動態調査によれば、2010年の総死亡数の半分以上をこれら3つの死因が占めていました。
しかし、2011年について1月から11月末までの死亡数概算値の累計を見ると、4番目に死亡数の多い肺炎が増加し、脳血管疾患を上回り、3大死因となりました。
肺炎による死亡数の増加は、高齢者の人口が増加したことによる影響が大きいと考えられます。
特に、高齢者は飲み込む力(嚥下えんげ)が衰え、誤嚥性肺炎を起こしやすくなっています。
飲み込む力が低下することにより肺炎を起こすケースが大変増えてきたという事です。
反対に脳血管疾患は、医療技術の進歩により、減少していますが、高齢者の誤嚥性肺炎に対する対策はほとんどされていないのが現状です。
これから超高齢社会を迎える日本は、これから、肺炎による死因のリスクは更に高まる可能性が高いです。
◆摂食嚥下訓練器具、ラビリントレーナーについて
ラビリントレーナーは、 食事中にむせる、食物を飲み込みにくい、食べこぼすなどの嚥下(えんげ)機能が衰えはじめている方、脳卒中などで、飲み込む力が衰えている方の訓練器具として、稲葉先生が発案した器具です。
日本では年間およそ8.000人の人が食べ物により窒息していると言われています。(誤嚥性肺炎)
そのほとんどが65歳以上の高齢者です。
■ 食事中にむせる、せきこむ
■ 食物を飲み込みにくい、食べるのに時間がかかる
■ 食べこぼしがある
■ 飲み込んだ後に声がかれる
■ 食物がのどにつまる感じがする、胸につかえる
■ 唾液(つば)が減って来た、口が渇く
■ 唾液が多い、よだれが出る
■ 肺炎や気管支炎を繰り返す
このような症状がある方は、飲み込み(嚥下)機能が低下しているという意識をしていただきたいと思います。
元日本歯科大学、高齢者歯科学教授、稲葉繁先生が発案した、『ラビリントレーナーに』は、飲み込み(嚥下)機能を鍛えるの器具として、大変有効な結果を得ています。
ラビリントレーナーの名前の由来はその名の通り、
ラビアル=唇
リンガルは=舌
ということで、唇と舌の訓練器具という意味です。
舌と唇、そして嚥下(えんげ)に必要な筋肉を鍛えることができるラビリントレーナー。
この発案には、40年もの間、研究を積み重ねてきた歴史があります。
次回は、稲葉先生がラビリントレーナーを発案した歴史についてお伝えしたいと思います。