IPSG包括歯科医療研究会発信|顎関節症、テレスコープシステムの専門家が歯科医療の現場と実際を綴るブログ:ドイツ式入れ歯リーゲルテレスコープをはじめて日本に紹介した稲葉歯科医院がお届けする、使用感・審美性ともに優れた本当の入れ歯とは?そして歯の治療にまつわるあれこれなど。

Home > 咬合を学ぶ > 咬合の大切なポイント

咬合の大切なポイント

【咬合の大切なポイント】 

1.体の中心軸をつねに考える

歯科医療はとかく口の中だけをみがちです。顎の位置や動きが体のバランスに影響することは明確です。

患者さんの体のアライメント(中心軸)がくるっていないか、よい姿勢であるか診断することは非常に大切です。

そのためには、頭蓋の軸を考えた咬合管理が必要になってきます。

顎口腔系の機能異常のある患者さんでは、体の左右非対称が認められる人がいます。

歩く姿を観察しても、頭部をどちらかに傾けたり、左右の方を結んだ線が床と平行でなかったり、両側の手の長さが異なったりしていることがしばしば認められます。

また、診療室のドアを入ってから椅子に座るまでの間、顎を動かしたり、カチカチ、タッピングしている患者さんもみられます。

この動作も歯科的問題がある場合が多いので、姿勢の観察は大切なことです。

2.咬合平面は体の中心軸と直交する平面

体の軸について考えるとき、フェイスボートランスファーはとくに大切なものです。

体の中心軸は頭からかかとまで一直線に通っていて、その軸に直交する平面がいくつかあります。

床と平行な面としては、膝、腰、肩、眼の位置です。

咬合平面もまた、床と平行することが大切です。同時に両手の長さも一致しているのがよい姿勢であると言えます。

歯科医療で左右のバランスをとる場合には、フェイスボートランスファーは不可欠です。

フェイスボートランスファーした模型を咬合器の中心に合わせ、咬合平面を診断したり、補綴物を製作することが必要です。

したがって、フェイスボートランスファーを行わない咬合治療はあり得ません。

3. 咬筋と直交する断面に咬合力が入る

咬合平面は下顎切歯点と下顎第二大臼歯を結んだ平面です。

この平面に咬合力が入れば、その力は歯の歯軸と一致することになります。さらにこの力は下顎を挙上する筋肉の方向と一致することが望ましいです。

咬合力と咬筋の方向が一致するのが理想的です。

したがって咬合平面は咬筋の走行と直交するのが理想的であり、歯に対しても歯軸と咬合力は一致することになります。

4.頭の重さは8kg、それを支える頸椎の安定をはかることが重要

人類は脳の発達により、直立二足歩行に進化したとまでいわれていますが、重たい脳を支えるためには、長軸方向の最長部に載せるのが合理的です。

現代人の頭の重さは約8kgであり、最も重い16オンスのボーリングの球を脊柱の上に載せていると考えればよいでしょう。

この重い頭を支える脊柱は7個の頸椎と12個の胸椎、5個の腰椎からなり、頸椎は頸椎湾曲、胸椎は胸椎湾曲のように、各々カーブを描き、全体はS字状湾曲をしています。

頸椎は最上部の冠椎 の上に頭を載せているのみで、大後頭孔の中に入り込んで支えているのではないので、非常に不安定な状態です。

したがって頭を頸の筋肉で支えながら固定し、下顎を前後、左右、上下に自由に動かしているため、頸にかかる負担は非常に大きいのです。

咬合の影響を受けやすく、全身の骨格と連携する頸の安定を得るためには、バランスのよい咬合関係を作ることがきわめて大切です。

5.顎の形は5角形、将棋の駒と同じ

不規則な形状の表面に安定を求めるためには、3点を接触させることで最もよい結果が得られます。

これはカメラを安定させるために3脚を使うことにより、どのような形状の場所にも安定を求めることができるのと同じです。

キャスターつきのイスの場合、4脚では床の表面が不規則なとき3本の脚のみが床と接触して不等辺三角形が生じ、椅子の重心は中心から外れ、椅子の安定は得られません。

したがって4脚の椅子はガタガタし不安定となります。しかし5脚の椅子はどのような表面でも常に正三角形を形成し、椅子の重心は真ん中に集まり、大変安定します。

そのため治療用のドクターチェアは5つのキャスターがあり、重心は真ん中となり安定感があるのです。

下顎骨を真下からみると5角形をしていますが、それはあたかも将棋の駒のような形をしています。

すなわち、左右両側の下顎頭を底辺にし、両側の犬歯、中切歯、切歯点を頂点とする5角形です。

5角形はつねに3角形が3個できるため、下顎が動いた場合には常に3点が接触し、大変安定します。

下顎が前方運動、側方運動すると必ず3点が接触し、非常に安定する形状となります。

すなわち、、前方運動では、両側の下顎頭と切歯の3角形、側方運動では両側下顎頭と犬歯でできる3角形ができ安定します。

3つの3角形を合成すると、その重心は顎の中心、すなわち両側の第一大臼歯と第二小臼歯を結んだ付近にくることになります。

したがって、咬合治療は常に5角形をバランスよく作ることを目標にするといいでしょう。

6.咬合は上顎運動と理解する

映画「ジュラシックパーク」をみた方には、DNAの応用でよみがえった恐竜に人が襲われ、恐竜が頭を左右に揺さぶって人を食べるシーンを思い出していただけると思います。

もちろん恐竜は6500万年前に突然地球上から消え失せたのですから、人間と恐竜が戦うことはあり得ないことですが、全身を使った顎の動きはまさにすさまじいものがあります。

なぜ、そのように体を振り乱す行動をとり、顎を動かすのか考えてみましょう。

肉食恐竜のT-Rexの顎の形は直線的で、下顎に関節窩、上顎に顆頭という、人の関節とは上下が逆の形をしているため、咀嚼運動は全身の運動であるということができます。

現在の動物でこれをみることができるのは恐竜の生き残りである鰐(ワニ)です。

鰐も下顎に関節窩、上顎に顆頭を持ち、獲物に噛みつくと水中で全身を使ってバシャバシャと暴れながら食べます。

鰐は地表に下顎が着いていて、口を開けると動くのは上顎であり、上顎に顆頭があるので上顎運動です。

私たちも机の上に両肘を突き、その両方の手の平で顎を支えて開口運動、側方運動、前方運動を行うためには、頭を反対方向に動かさなければなりません。

すなわち、開口運動は頭を上に上げ、左右側方運動では頭を逆方向に動かし、前方運動では頭を後ろに引かなければなりません。

これを経験すると下顎はまさに全身の運動であることを実感できます。

したがって咬合は全身と密接に関係しているといえます。

7.顎口腔系の力は3級の梃子

顎口腔系のバランスをとるためには、顎に働く力のコントロールが必要です。そのためには顎に働く梃子現象を理解する必要があります。

梃子現象は支点、力点、作用点の関係で表され、その位置関係で仕事量が変わってきます。

正常な顎運動を行う梃子の形態は、3級の梃子から成り立っています。

すなわち支点となるのは顎関節であり、常に下顎頭が関節窩の中で関節円板を介して上壁と接しながら回転したり、滑走したりすることが重要で、常に下顎頭が支点となっています。

そのとき力を入れる力点は、咬筋、内側翼突筋、側頭筋などの下顎を上方に持ち上げる閉口筋であり、作用点は歯列となります。

この梃子は一般的にみられるのは魚釣りの梃子です。すなわち、釣り竿の胴突きが支点となり、腕が力点として竿を持ち上げ、その結果、作用点としての魚は歯列ということになります。

この梃子は能率的ではないが、魚を守るためには都合のよい梃子です。したがって歯列に急激な強い力をかけないためには3級の梃子がよいのです。

顎口腔系にもっとも為害作用を及ぼす梃子は1級の梃子です。

この梃子は最小の力で最大の効果を上げる梃子で、一般にみられるのはシーソー、栓抜き、鋏、スコップ、釘抜きなどで、支持アームが長く、抵抗アームが短い梃子。

すなわち力を入れるアームが長いため少ない力で重たいものを持ち上げたり、釘を抜いたりできるものです。

この1級の梃子が顎口腔系に働いた場合には、破壊力が強く、とくに顎関節に近い歯が支点となった場合には顆頭を引き下げる力として働くため危険です。

たとえば下顎第三大臼歯が萌出し、対合歯がなかった場合には挺出を招き、咬合平面を乱してしまいますが、それと同時に下顎前方位をとったとき下顎第三大臼歯の近心が上顎第二大臼歯の遠心に接触し、そのまま下顎を前方に突き出すと、ここのみが接触し、そのほかの歯は離開してしまいます。

そこで生じるのが第三大臼歯を支点として1級の梃子が働き、わずかの力で下顎頭を引き下げてしまう結果を生じ、下顎前方位で顆頭が下がると外側翼突筋の上頭と下頭のバランスが狂い、関節円板の前方転位を招いてしまう結果となり、顎関節症の原因となります。

したがって1級の梃子は絶対に認めるわけにはいきません。

 

8.咬合面は8つの要素から構成されています。 

咬合面は山や谷のようになっています。そのそれぞれに意味をもち、役目をもっています。そのため平らであってはいけません。

咬頭と窩が嵌合し1つの関節を作っています。

そして下顎運動の際、お互いに邪魔にならないように溝の方向にしたがって導いています。

咬合面は咬頭頂、辺縁隆線、中心隆線、三角隆線、発育溝、副溝、副隆線、窩の8要素があり、それぞれ臼歯に存在し、それが対合歯と接触して16要素が顎運動にしたがって機能しています。

 

9.中心位と中心咬合位は確実に理解しましょう。

歯科医療を行う場合には、顎の位置と運動を理解していなければなりません。

とくに中心位と中心咬合位は完全に理解する必要があります。

中心位は、歯が存在しなくても上顎対下顎の位置関係において顎関節のもっとも安定した位置です。

すなわち、関節窩の中で下顎頭が関節円板に乗り、機能する中で最も後方で、最も上方、左右的に真ん中にあり、そこから自由に側方運動できる位置です。

したがって関節の機能する原点で、顎の動きの出発点でもあり、終着点でもあります。

無歯顎においても、この位置で人工歯により咬頭嵌合させて顎の安定をはかることが重要です。

中心咬合位は歯がなくても存在しない位置であり、後天的獲得位といわれます。

したがって、歯が生えてからできる位置です。

言い換えれば、歯の条件により常に変化する位置であるといってもいいでしょう。

噛みやすい位置があれば、下顎をその位置にもっていくようになりますが、そこを噛みやすい位置として脳は覚えてしまい、常にその位置に戻る習性が生まれるのです。

理想的な咬合位としては、中心位と咬頭嵌合位が一致している顎位です。

ここは咀嚼筋、頸部の筋などすべての筋肉が緊張なく、正しい頭の位置でバランスよくかむことができる位置です。

10.咬合面にはゴシックアーチが隠されています

中心位と中心咬合位が一致してバランスのよい顎位でかみ締めることができる位置が生まれると、そこから上下の歯は前後、左右に滑走することが必要です。

上下の歯は咬頭嵌合位、すなわち上顎舌側咬頭と下顎頬側咬頭が対合歯の窩に嵌合することで上下顎を安定させます。 

そこから顎は前後、左右に動くのです。その際、下顎の運動に沿って咬頭頂が滑って行く溝が存在します。その方向は顎関節の動きにしたがい、歯の咬合面の上に溝として表れています。

すなわち、ゴシックアーチが咬合面に隠されています。

したがってこの方向に沿って顎は誘導されます。

このゴシックアーチを描くために必要不可欠なものが咬合器です。 




2010年05月31日

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.shigelog.com/mt/mt-tb.cgi/110

コメント

コメントを投稿

(いままで、ここでコメントしたとがないときは、コメントを表示する前にこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。そのときはしばらく待ってください。)





Categories

Entry Tag

Entries

Archives